ユートピアだより ウィリアム・モリス 1890 松村達雄訳 1968 岩波文庫

ユートピアだより

ユートピアだより


 「民衆の芸術」以来何年かぶりに読んだウィリアム・モリスである。彼の芸術観と思想が融合した見事な作品である。理想社会での芸術と、精神活動と肉体労働の融合。そこにおける人間関係。舞台を日本にして映画化できないものか。


 理想社会の描写もすばらしいが、そこにいたる経過、革命の描写もすごい。議会制民主主義などどこにも出てこないのだ。当時読んだ人は、私よりももっと現実味を感じていただろう。


 いま、この本はどのように読まれるのだろうか。単に「大きな物語」と片付けられるのだろうか。当時はまだ、鉄道が文化の象徴だった時代だ。鉄道が自然を破壊するのである。だから、ユートピアの人々は鉄道を捨てる。いま、時代の象徴はコンピュータである。現代において社会変革を考える人は、現代の科学水準の結果を利用しようとしている。それで社会が変革できるのかがまず疑問である。できたとして、その結果の社会が目指しているものなのかどうかも不明である。


 今から見れば、素朴な理想主義であるが、そこに読みとらなければならないものが多くあるように思える。



Tue Sep 25 23:29:59 2001