君はエントロピーを見たか-地球生命の経済学 室田武 1991 朝日文庫



君はエントロピーを見たか-地球生命の経済学

君はエントロピーを見たか-地球生命の経済学


1. タイトル



 変わった、というかおもしろいタイトルの本であるが、中身はまじめな本である。このタイトルは、たぶん本屋が付けたのではないだろうか。(本の書き方から察するに、この著者にもこのくらいのユーモアは持っていそうであるが。)



2. 自然科学と社会科学



 自然科学で解明されている事項を社会科学に応用すること、あるいは一般人にわかるように書くことは難しい。社会科学の事項でもそうであるが、わかりやすく書けば書くほど厳密さが失われていくのが実体である。


 この本は、単なるエントロピーの解説書ではなく、それを経済学(広い意味の)に応用し、解説している。エントロピーの解説書は以前にも読んだことがあるが、それよりも適切な解説をしているように思う。



3. エントロピーと経済学



 経済学的な事項をエントロピーで自然科学的に解説しようとすれば、それは数冊の本になってしまうであろう。この文庫本にそれを求めるのは無理である。しかし、この本では多少の犠牲を払ってもエントロピーという視点で経済学を説明しようとしている。


 著者の視点は、生産の効率と廃棄物を含めた全体としての経済行為に向いている。


 生産の効率とは、たとえば原子力発電を行うには、たくさんの石油が必要であり、決して火力発電の代替にはならないということ、ただの迂回生産でしかないこと。パンも自動車もすべて石油と水を大量に使って出来ていることなどである。


 また、経済行為とは単なる生産活動ではなく、使われる資源と、生産物と廃棄物全体を考えなければならないことなどである。



4. 人間とエントロピー



 人間は、エントロピーを大量に捨てて、自己のエントロピーを低くしなくては生きてはいけない。しかし、そのために地球環境を破壊しては本末転倒である。


 地球全体をエントロピーの視点から見るとき、自然保護の意味も単なる感情論ではなく、科学的な目を持つことが出来る。



今、地球環境が破壊され、回復不可能になりつつあるのは誰の目にも明らかである。しかし、それを防ぐ具体策は経済優先の社会からは生まれてこない。しかし、経済活動そのものを科学的な目で見ることによって、具体策が実現可能性を帯びることに期待したい。