消滅世界 村田沙耶香 河出書房新社 (2015/12/16)


面白く読んだけど、いまいち主人公のスタンスが理解できなかった。主人公の中での葛藤ということで読者が考えていいということだろうか。

「仕事とセックスは家庭に持ち込まない」という男の台詞はあるが、家にいる女にとってそれはたまらないことで、女性が仕事(というより社会進出と言ったほうが正確だが)を持つようになった現在、家庭の役割そのものが問われていることは確かだ。

家庭が崩壊したあと、何が残るか。個々人がバラバラの個になるか、社会がその代りを務めるのか。人は一人では生きていけないから、何かの媒介(例えばお金)を通して緩やかにつながるか、千葉の実験都市のように制度として個々人のつながりを持つかどちらかであろう。校舎については、イスラエルのキブツという壮大な実験がある。

手塚治虫の漫画だったか、仏になろうとしてみんな同じ顔形になるのだが、主人公が「それで幸せか?」と問うシーンが印象に残っている。キブツも千葉の実験都市も同じように思える。個性がない(名前も必要ない)社会は、本当に人間社会と言えるのかどうか。人間以外の動物や植物の社会はそれで成り立っているが、人間が自我を持つ存在である以上、それはどこかで人間性を破綻させていると思う。

今、共同体の最小構成単位であり、国民支配の最小単位でもある家族、その危なっかしいバランス(アンバランス?)が数々の問題を抱え、家族内だけなく家族外へも様々な問題(犯罪を含む)を引き起こしているのは周知のとおりである。

この小説が、「家族」の問題提起以上に踏み込んでいるかどうかは意見の分かれるところであろう。