マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する (NHK出版新書 569) 丸山 俊一 、NHK「欲望の時代の哲学」制作班著 (2018/12/10)NHK出版

マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する (NHK出版新書 569)BSが見れないので、ユーツベで「欲望の資本主義」と「欲望の民主主義」を観ました。「序章」はテレビで観ました。まあNHKなので、現象としての経済・政治はうまく描かれていましたが、どこにも救いがないのが、つまり本質が描かれていないのが残念でした。

そのへんの話をマルクス・ガブリエルを主人公に再構成したのがこの本です。

「新実在論」そのものを説明している箇所は少なく、それをもとに現実社会、文化などを語っていく。

「なぜ世界は存在しないのか」は読み終えたのですが、その理解を深めるために読みました。

この本の中にも出てくることですが、文化・言語が異なると概念を伝えたり、翻訳することは難しいですね。もちろん訳者の力量に追うところも大きいですが。

その点、本書は哲学そのものではなく、現実の事象を扱っているので、いくらかその困難を逃れています。

面白かったのは、ロボット学者の石黒氏との対談ですね。そこに「科学」に対するマルクス・ガブリエルの考え方と、資本主義(新自由主義)とIT社会を代表する石黒氏との違いが明白になっています。

ガブリエルは科学技術や、ITそのものを否定するわけではありません。彼がいいたいのはそれらの利用には倫理(「道徳」ではありません)が必要だということだと思います。それは、普段の人間同士の会話にも、政治にも、そして「経済」にも必要なことです。科学技術は万能で、科学であるがゆえに無条件に受け入れられる現実があります。その影響で、SNSの弊害や、子供にスマホを与えるべき名などの問題が浮上していますが。

今や、人間は道具を使う動物ではなく、「道具に使われる」動物になりつつあります。科学とその進歩が最優先され、それが経済発展の手段となるだけでなく、人々の支配の手段となっています。

その基本は、すべてのものが「数値化」できるという考えです。ロボットテクノロジーもその基本を忠実に実践しているだけです。すべてが商品化されるということは、すべてが数値化できるということです。

花柄や負債の基本が数値化にあることをグレーバーは「負債論」で明らかにしました。世の中には数値化しようと思えばできるものと、できないものがあります。ことによると全ては数値化できるのかもしれません。しかし、数値化するときには倫理と論理、哲学が必要なのです。私の価値は数値化できるかもしれません。だから、私は時間と能力を売ってお金をもらうことができます。でもそれは、一つのイデオロギー、資本主義のイデオロギーのもとで可能になることで、実際には数値化などできないし、してはいけないことだと思います。学校では「点数」をつけます。人の価値・能力を数値化しているわけです。みんなそれを自然なことだと思っています。

そんな状況を「新実在論」が打ち破ってくれることを期待します。

最後に一言。石黒市のような意識の低い人がロボットを作るなんて恥ずかしいです。なんせ、人間は脳だけで考えていると思っているのですから。科学者としてもレベルが低すぎますよね。