なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ) マルクス・ガブリエル著 清水 一浩訳 (2018/01/13)



読んでから1年が経とうとしている。書評を書かなかったのは、わからないので書けなかったという理由。

当時から考えていたのはゲーデルの「不完全性定理」を哲学的に焼き直したものだということ。

そのために考えた概念が「意味の場」というもの。そこには人間の存在が必須(「意味」)であり、かつ客観的な時空が必要(「場」)だというもの。

客体の認識には常に意識が必要であり、意識が設定した意味を担って「もの」は存在している。

この概念を使うと、世界が存在すると考える私が存在する、と考える私が存在する・・・と永久に後退してしまう。自己言及のパラドックスだ。だから「全ては存在するけど、世界は存在しない」ということになる。

これは、人間(とその意識)を認める概念としては、現代では最低限であり、かつ包括的な考え方である。

科学の発達は、人間の機能を機械やAIに置き換え、人間の存在、特に「個」としての人間の存在を脅かしている。「新自由主義」や「情報化社会」は最終的には「個」の破壊、つまり人間の破壊に結びついている。個人の意識は資本主義にとっては「ノイズ」でしかない。それを取り除いた時、人間は金塚貞文の言う「人工身体」となる。

それに贖うために、ガブリエルには哲学的に現代社会を分析・解釈していってほしい。私は、残されているノイズはセクシャルなことだと思うので、金塚氏、赤川氏の路線を継承していきたい。そこにネグリの運動論(政治論)が合流すれば、我々に勝利の可能性が見えてくると思っている。

このあとかれは『「私」は脳ではない』という本を出版しているが、何でもモノに還元しようとする現代科学が、脳を物理的に研究し、思考をニューロンのパルスに還元することに対する反論であろう。いずれ読もうと思う。



⟨impressions⟩

One year has passed since I read it. The reason I did not write a book review was that I could not write it because I could not understand it.

What I was thinking from that time was that Godel's "incompleteness theorem" was philosophically reworked.

The concept we considered for this was the “place of meaning”. It is said that a human being is essential ("meaning") and that an objective space-time is needed ("place").

Consciousness is always required to recognize an object, and "things" exist with the meaning set by the consciousness.

With this concept, I think that the world exists, I exist, I think ... there is a permanent decline. A paradox of self-reference. So, "everything exists, but the world doesn't exist."

This is the least modern and comprehensive concept that recognizes humans (and their consciousness).

The development of science has replaced human functions with machines and AI, threatening human beings, especially as individuals. "Neo-liberalism" and "information society" ultimately lead to the destruction of the "individual", that is, the destruction of human beings. Individual consciousness is nothing but "noise" for capitalism. When it is removed, humans become the "artificial body" described by Sadafumi Kanezuka.

To compensate for it, I want Gabriel to analyze and interpret modern society philosophically. I think the remaining noise is sexual, so I want to inherit the lines of Mr. Kanazuka and Mr. Akagawa. If Negri's kinetic theory (politics) merges into it, I think we can see the possibility of victory.

After this, he published a book, "I am not the brain," but modern science, which seeks to reduce anything to things, physically studies the brain and reduces thoughts to neuronal pulses. Would be an objection. I will read it someday.





[出演者(プロフィール)]

マルクス・ガブリエル
1980年生まれ。哲学者。現在、ボン大学教授。後期シェリング研究をはじめ、古代哲学における懐疑主義からヴィトゲンシュタイン、ハイデガーに至る西洋哲学全般について、一般書も含めて多くの著作を執筆。「新しい実在論」を提唱して世界的に注目されている。主な著書は、本書のほか、An den Grenzen der Erkenntnistheorie (Karl Alber, 2008), Skeptizismus und Idealismus in der Antike (Suhrkamp, 2009), Die Erkenntnis der Welt (Karl Alber, 2012), Fields of Sense (Edinburgh University Press, 2015) など。スラヴォイ・ジジェクとの共著に、Mythology, Madness, and Laughter (Continuum, 2009)(日本語訳『神話・狂気・哄笑』、堀之内出版、2015年)がある。

清水 一浩
1977年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程単位取得退学。主な訳書に、アレクサンダー・ガルシア・デュットマン『友愛と敵対』(共訳、月曜社、2002年)、ヤーコプ・タウベス『パウロの政治神学』(共訳、岩波書店、2010年)ほか。



今、世界中で注目される哲学者マルクス・ガブリエル。その名を一躍有名にしたベストセラー、待望の邦訳!

20世紀後半に一世を風靡した「ポストモダン」と呼ばれる潮流以降、思想界には多くの人の注目を浴びるような動きは長らく不在だったと言わざるをえません。
そんな中、21世紀の哲学として俄然注目されているのが、新たな実在論の潮流です。中でもカンタン・メイヤスーは「思弁的実在論」を主張し、思想界をリードする存在になっています。それは「人間が不在であっても実在する世界」という問いを投げかけ、多くの議論を巻き起こしましたが、その背景にはグローバル化が進んで国家や個人の意味が失われつつある一方で、人工知能の劇的な発展を受けて「人間」の意味そのものが問われつつある状況があるでしょう。
こうした新たな問いを多くの人に知らしめたのが、本書にほかなりません。「新しい実在論」を説く著者ガブリエルは1980年生まれ。2009年に史上最年少でボン大学教授に就任したことも話題になりましたが、2013年に発表された本書がベストセラーになったことで、一躍、世界的スターになりました。
本書のタイトルにもなっている「なぜ世界は存在しないのか」という挑発的な問いを前にしたとき、何を思うでしょうか。世界が存在するのは当たり前? でも、そのとき言われる「世界」とは何を指しているのでしょう? 「構築主義」を標的に据えて展開される本書は、日常的な出来事、テレビ番組や映画の話など、豊富な具体例をまじえながら、一般の人に向けて書かれたものです。先行きが不安な現在だからこそ、少し足を止めて「世界」について考えてみることには、とても大きな意味があることでしょう。
「です、ます」調の親しみやすい日本語になった今注目の書を、ぜひ手にしてみてください!

【目次】
哲学を新たに考える
I これはそもそも何なのか、この世界とは?
II 存在するとはどのようなことか
III なぜ世界は存在しないのか
IV 自然科学の世界像
V 宗教の意味
VI 芸術の意味
VII エンドロール──テレビジョン

訳者あとがき




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