接続された心-インターネット時代のアイデンティティ シェリー・タークル 1995 日暮雅通訳 1998 早川書房

接続された心-インターネット時代のアイデンティティ

接続された心-インターネット時代のアイデンティティ


 コンピュータが個人の意識に与える影響のフィールドワークである。「私たちは主観的なコンピュータを探しあてた。コンピュータは私たちのかわりに何かをしてくれるだけでなく、私たちに対して何かをしてくれる。私たち自身やほかの人間に対する考え方にも影響を与えるものだ。」


 本書は3部に分かれる。第1部は、ロジックとプリコラージュの関係。ロジカルな直線的な思考から、いろいろといじくり回す思考への変化。第2部は生物と無生物の境界に関する思考の変化。第3部はシミュレーションとリアルとの関係の変化。それは、自己の多様性というポストモダンな思考方法と共通するものがある。


 これらの現象は興味深いが、インターネット文化に接触し、著者がいう状況に接するのは一部の人間である。それは、ポストモダンの著作に接する人と同様であるが、それらが生み出す思想的雰囲気が、様々なメディアを通じて人々の意識に書き込まれる。もちろん、資本のフィルターを通したあとであるが。


 ラジオ、映画、テレビと同じようにコンピュータも人々の意識を変えて行く。ある人はそれを積極的に肯定し、反資本に利用すべきだという。しかし、それらは資本を維持する方向に使われてきた。今後もそうなるであろう。同じ道具を利用するなら、力のある方が有利にそれを使えるからだ。


だからといって、その現実を単に否定することはできない。現実としてそこにあるのだから。だとすれば、それを消極的に肯定し、必要悪として利用することになるのではないか。それとも「コンピュータ」だけはいままでのメディアと異なるといえるのだろうか。その答えの鍵は、コンピュータにではなく、「本当に力を持っているのは資本なのか、人間なのか」にあるように思える。



Tue Jul 10 02:08:53 2001