君たちはどう生きるか 吉野源三郎原作 羽賀翔一漫画 2017/08/24 マガジンハウス


たまたま、古本屋で税込み88円で売っていました。前々から読みたいと思っていたので、思わず買っちゃいました。

原作は、1935年に出版されました。その著者、吉野源三郎は岩波新書、『世界』を創刊した人だそうです。彼がいなかったら岩波新書が読めなかったかもしれないと思うと、すごい人です。

実は私は、吉野源三郎を「吉野作造(よしの さくぞう 1878年〈明治11年〉1月29日 - 1933年〈昭和8年〉3月18日)」と混同していました。だから、「君たちはどう生きるか」は吉野作造の作品だと思っていました。恥ずかしい。

この当時(昭和10年)の状況はよく分かりません。でも、この4年前に治安維持法で逮捕されていますから、この戦後民主主義的な著作が簡単に出版できたとは思えません。新潮社からか出版されたそうですから、新潮社も岩波書店もすごいですね。

いまはどうでしょうか。新聞もテレビも、「政府広報」のようです。本当は、政府系、反政府系両方の放送局があったほうが、資本主義社会にはいいのです。アメリカなどの2大政党制がそうです。国民の大多数の支持を得て独裁するなどという必要はないのです。投票数の半分を取ればいい。投票率は50%程度ですから、国民の4分の1の支持があればいいのです。そして、国民の不満は野党が吸収します。吸収しきれなくなったら政権交代をする。そうやって、資本主義を維持してゆくのです。一党が集中して得票するのは、「反民主主義(全体主義や社会主義)」になってしまいますから、反対勢力が絶対に必要なのです。反対勢力を弾圧することも必要です。弾圧されてもこんなに頑張っているんだ、という姿は民衆の罪悪感を和らげるのです。革命家は民衆の犠牲(スケープゴート)です。キリストと同じです。

でも、民衆は社会が変わることをのぞんではいません。どんなに貧しくても、「今日生きている」という状況を棄てたくはないのです。この農薬は体に悪いから少し(?)高くても無農薬の野菜を買おう、と思えるのは、ある程度生活に余裕のあるお金持ちだけです。100円の野菜と80円の野菜があれば、80円の野菜を買うのです。新聞に山のように折り込まれているチラシをくまなく比べて、79円の店があれば、そこで買うのです(自家用車でガソリンを使っても)。

そういう感覚がなければ、民衆は生きてけません。今日、買い物ができて、ご飯が食べられれば、それがなくなる危険を犯してまで、社会を変えようとはしないのです。自分が(家族が)警察(特高)に捕まる危険を犯してまで反体制(革命)運動はしないのです。代わりに捕まってくれるのが革命家です。逆にそういう人がいなければ、民衆の中に溜まった不満は行き場を失うでしょう。

この本の主人公「コペル君」(コペルニクスにちなんで、おじさんが付けてくれたあだ名)は、大きな「気付き」をします。それは、つながり(関係)の中で、みんな(人も、物も)存在しているということです。目の前にあるこの本はどうやってここに存在しているのか。まず、書いた(描いた)人がいます。原稿を書くための紙やペンやインクを作った人がいます。編集者がいて、マガジンハウスという会社があります。原稿は印刷所に行き、印刷されます。印刷された紙は製本所に行きます。製本された本は、輸送会社によって運ばれ、書店に行き、販売されます。販売員がいて、それを買った人がいます。買った人は古本屋に売りました。古本屋さんは、綺麗にして88円の値札を付けます。それを私が見つけて買いました。印刷の機械や、輸送のトラックなど、この本が今ここにあるのには、沢山の人の手がかかっています。100人どころではありません。何万人、あるいはそれ以上の人が関係しているのです。そのなかの多くは日本の人ですが、海外の人の力もたくさん使われているでしょう。

これをコペル君は「網目(あみめ)の法則」と呼びました。人と人の関係・結びつきです。

コペル君は、ちょっと頭でっかちで弱虫な中学生です。喧嘩が強いいじめっ子に仲間が団結して立ち向かおうとしたとき、コペル君は裏切って逃げてしまいます。コペル君はそれを恥じて、後悔して、布団のなかに逃げ込んで不登校になります。

コペル君をどう思いますか。コペル君は立ち直れるでしょうか。コペル君が立ち直るには何が必要でしょうか。

コペル君には話を聞いてくれるおじさんがいました。決めるのは(答えを出すのは)もちろんコペル君本人です。でも、おじさんの存在は必要だったと思います。それは、コペル君のなくなったお父さんの代わりではありません。年上である必要もありません。それはある人にとっては本かもしれないし、映画かもしれません。同年代の仲間かもしれません。そういう「人間の網目」が「自己の決定」には必要なのです。

私はコペル君です。いまは「現在消費ばかりして何も生産しない」コペル君と同じ存在です。もうこの歳ですから、そこから抜け出す希望はもっていません。でも、いまのままで「おじさん」になれるような気はするのですが。







[出演者]

吉野源三郎
編集者・児童文学者。1899(明治32)年〜1981(昭和56)年。
雑誌『世界』初代編集長。岩波少年文庫の創設にも尽力。


羽賀翔一
漫画家。2010年『インチキ君』で第27回MANGA OPEN奨励賞受賞。
2011年にモーニングで『ケシゴムライフ』連載、2014年に単行本発売。近刊に『昼間のパパは光っている』


子ども、親、祖父母…
すべての世代で
2018年一番読まれた本!

おかげさまで、212万部突破!
・amazon2018年和書ランキング 1位
・オリコン年間“本"ランキング2018 1位
・トーハン、日販、大阪屋栗田 2018年ベストセラー〈総合〉1位

●姜尚中さん(政治学者)
情報過多で本質を見失い、子どもをどう育てていいか
確証の持てない親に読んでほしい。

●尾木直樹さん(教育評論家)
いじめや不登校、貧困は今も未解決の問題。
大人も子どもも、ひとまずスマホを置いて、
「どう生きるか」一緒に考えたいわね。


人間としてあるべき姿を求め続ける
コペル君とおじさんの物語。
出版後80年経った今も輝き続ける
歴史的名著が、初のマンガ化!

1937年に出版されて以来、
数多くの人に読み継がれてきた、
吉野源三郎さんの名作「君たちはどう生きるか」。
人間としてどう生きればいいのか、
楽しく読んでいるうちに
自然と考えるように書かれた本書は、
子供はもちろん
多くの大人たちにも
共感をもって迎えられてきました。
勇気、いじめ、貧困、格差、教養、、、
昔も今も変わらない人生のテーマに
真摯に向き合う
主人公のコペル君と叔父さん。
二人の姿勢には、生き方の指針となる言葉が
数多く示されています。
そんな時代を超えた名著が、
原作の良さをそのままに、
マンガの形で、今に蘇りました。
初めて読む人はもちろん、
何度か読んだことのある人も、
一度手にとって、
人生を見つめ直すきっかけに
してほしい一冊です。
《全国学校図書館協議会選定図書》


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