
スプートニクの恋人
ありきたりの恋愛小説である。と、これだけではみもふたもないので少し。
ミュウの見たもう一人の自分は、別の世界の自分である。それは、自分の隠れた欲望の世界でもある。自分も知らないような、あるいは自分が知ることで嫌悪感を催すような自分である。自分が知らない、あるいは嫌悪感を催すような自分は、存在したとしても他人である。もしそのような人間が自分のなかにいたならば、その人は多重人格者である。ミュウはそのもう一人の自分を観覧車のなかに閉じ込められて自分の部屋を覗くという状況で、いつもの自分を残したままもう一人の自分を追体験してしまったのかもしれない。
すみれが恋をしたのは、こちらの世界のミュウなのか、別の世界のミュウなのか。こちらの世界のミュウを透してみた別の世界のミュウなのか。すみれはそれを知ることになる。別の世界に行くことによって。二つの世界はそのことによって一つにつながる。そしてすみれは帰ってくるのだ。
主人公(あるいは登場人物)は、直線的時間概念にとらわれている。そこには人知を越えた永遠の孤独がある。そして、自分の時間概念を補うために、並行的な異次元空間(世界)を持つのである。その別の世界がつながったとき、直線的時間は壊れ、「現実の」「自分の時間と空間」が見える。それが「自分」という「場所」を発見し、同時代に生きる人間としての「他人」を発見することになる。そこで初めてコミュニケーションの可能性が発生するのである。
(2000年記)
