もっと知りたいミロ 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション) 松田健児、副田一穂著 2022/02/25 東京美術


「翻訳書や展覧会のカタログを除けば、日本人によって新たに書き下ろされたミロ本は1981年を最後に刊行されていない。」(P.3)

そうかあ。わたしは、しばらく本屋にも行っていないけど、たしかにミロの本は最近ないかもしれません。

わたしはミロが大好きです。昔ある展覧会に行ったときです。大きな名作がたくさんありましたが、私の心を惹きつけたのは、小さなミロの絵でした。それまでに見たどの画集にも載っていなかったので、有名な作品ではないと思います。でも、その世界に引き込まれたことを思い出しました。

ピカソの画も、ダリの画も、たくさん観ました(もちろん、実物ではなく、画集でです)。ピカソはそのデッサン力に敬服するし、ダリは模写をするほど好きです。でも、わたしの絵の奥にあるのはミロだと思います。

いまとなっては(?)ミロの生い立ちや、日本との関係など興味はありません。久しぶりにミロの絵と再会させてもらったことを著者に感謝したいと思います。

せっかくのミロの感想文なので、もう少し書きます。

この本にはミロの子供の頃の絵が何点かあります。すごいというより、どんな子どもでも描ける絵です。日本では一時期、女の子は目のでかい「少女漫画」のような絵を書くのが流行ってました。男の子はいまでも「ヒーロー物」を書いているようです。そんな面白くない(穢されている)絵じゃなければ、ミロのような絵が描けると思いました。そしてミロがすごいのは、そのまんま、死ぬまでその絵を書き続けているように思えたことです。

たしかに、キュビズムのような絵を描いたりしています。でも、そんな「かしこい」絵はすぐに止めたように思います。ピカソはそのかしこい絵を卒業するのに何年もかかったのではないでしょうか。キュビズムやシュルレアリスムの絵は「あたま」で描いた絵です。どうも「エリート」の匂いがします。ダリは最後まで、そんな絵を描いていた気がします。わたしはそういう絵が嫌いではありません。ウォーホールも好きだし、ドゥシャンも好きです。わたしは、技術も才能もないので、頭で描くことが多いのです。プログラムで絵を書くことなんて、その最たるものです。それでも、なんか描いた気になるし、「すごい」と言ってくれる人もいました。いまはコンピュータがあれば、ウォーホールのような絵を描くことは簡単ですし、レディーメイドも常に二番煎じです。

ミロの絵は「こころ」を感じます。なにが描かれているのかは問題ではありません。どんな素材を使っているのかも問題ではありません。線に、色に、「風」と「温かみ」を感じます。その風はたしかに、地中海、スペイン(カタルーニャ)から吹いてきます。でも、どこから吹いてきてもいいのです。ミロの描く絵の中の猫や人物と同じように、どんな猫だろうと人物だろうといいのです。なにが描かれているかどうでもいいように、どこから吹いてきてもいいのです。ただその風が運ぶ優しさとぬくもりに触れることができればいい。そう思います。








[著者等(プロフィール)]

松田健児(まつだ・けんじ)
熊本県生まれ。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業、学習院大学大学院博士後期課程退学、マドリード・コンプルテンセ大学博士課程DEA 取得退学。慶應義塾大学商学部准教授。著書に『もっと知りたいピカソ改訂版』(共著、東京美術)『スペイン美術史入門』(共著、NHK出版)などがある。

副田一穂(そえだ・かずほ)
福岡県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻(美術史学)修了。愛知県美術館主任学芸員。主な企画展覧会に「トライアローグ 横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」(2021年、共同企画)、「ミロ展──日本を夢みて」(2022年)など。近年の論文に、「〈夢の絵画〉から『絵画の殺害』へ──ジョアン・ミロとシュルレアリスム」、「(反)バルセロナの画家、ジュアン・ミロ」などがある。



長らくシュルレアリスムの画家として認知されてきたミロ。本書では日本とのつながり、故郷カタルーニャへの深い愛着に着目し、ミロの新たな一面に光を当てる。40年ぶりに日本人研究者によって書かれた待望のミロ入門書。




もっと知りたいミロ 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション) 松田健児、副田一穂著 2022/02/25 東京美術
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